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内言語と外言語

菅総理の消費税10%増税案が先の参議院選挙における敗北の主因と言われている。筆者はそればかりではないと考えている。今回は、そのことではなく「消費税増税」について考察してみたい。

財務省に指嗾されたと専らであるが、そのことに間違いはあるまい。「自民党が10%増税を掲げている今が好機ですよ」、「いずれ増税しなければならないのだから、自民党と同じ税率を提起すれば、あらためて提起するより楽ですよ」、「国民にはギリシャの二の舞になってよいのか」とか「社会保障の財源確保などと表明すれば、緩い国民たちですから十分な説明になりますよ」などと唆されたことは明らかである。

菅総理が自分の頭の中で「消費税増税」について充分考量して、その内言語を自ら翻訳して国民への説明に遣う外言語に転換したのならば、自分の考えた政策としてブレることなく押し通せた。ところが、財務省が十分考量した財務省の「内言語」を、菅総理向けの「外言語」として聴かされた菅総理には自分の考えとして脳に着座していない。

従って、選挙戦が近づくにつれて形勢不利となりつつあるときにすでにブレ始め、選挙戦中は徹底的にブレまくった。もともと、財政のことには暗い総理であり、経済のことには暗愚であることは衆目の一致するところである。他者(財務省)が練りに練った増税政策を言語化して菅総理の耳に入れた。菅総理はその本質の理解はできていない。

菅総理は財務省の「外言語」に納得した。これは、従来、各省庁が記者発表等で駆使した方法である。マスコミを誘導すると同時に、菅総理を籠絡した。

菅総理がもともと確たる理論を構築していない「増税案」である。自民党と同率にしておけば、「小沢氏排除の菅総理人気」で一挙に選挙を勝利できるという「財務省の提案」に飛びついたのだから「論理の足場は脆い」と言わざるを得ない。

「10%の根拠」を問われれば「自民党と同じ税率にして戦況を有利に展開したいから」とはこたえられまい。「増税の前にやるべきことがあるはずだが?」と問われれば、「官僚の壁が厚く、強力な抵抗の前にあえなくダウンしました」とはこたえられまい。「日本の事情とギリシャは同じなのか?同列には論じられないのでは?」と問われれば、「財務省にそのように不安を煽れと言われたから」とはこたえられまい。

かくして、選挙期間中に自信喪失状態に陥り、子供のレベルの言い逃れ的修正をし続けた。
その結果、「空き菅」とか「ブレ菅」とか言われ、選挙で多くの議員を落選させてしまった。

選挙の結果は、「消費税」のみでなく、民主党に対する失望感が主たる原因だろう。しかし、菅総理の総理たる器の問題、人格の問題、「ただただ総理になりたかっただけの男」の正体が露見したことなど多くの原因がある。

ここで、内言語と外言語について簡単な整理をしておきたい。(引用開始)言葉(言語)には二つの体系がある。1920年代に、条件反射反応の機構に関する研究で有名なパブロフが発見した。一つは、応答的に発せられるもので、内省を得ないで反射的に使われる体系である。もう一つは、脳内における内省を経て、内容が統合的になり、論理的に整理されて、自らの意思に基づいて発せられる言葉(言語)の体系である。

パブロフは前者を「外言語系」、後者を「内言語系」と名付けたが、後にN.チョムスキーは、これをこれらの体系をそれぞれ「E言語(Externalized Language)」、「I言語(Internalized Language)」と名付けた。というのが定義であるが、今回は、このことにはこれ以上言及しない。内容のない外言語どうしの応酬が繰り広げられる、政治家どおしのTV討論などに言及したいがまたの機会にする。(引用終わり)(桜井邦明著 日本語は本当に「非論理的」か 祥伝社)

個人の内言語と外言語は、発展して組織内の内言語とその組織の考えを外言語として外部に説明する際にも使われる概念である。その際、組織内内言語を上手く適切に翻訳する機能が存在しなければ外部に十分説明責任を果たせない。

このあたりの翻訳機能を操作することによって、組織内内言語、例えば財務省内内言語を外言語化して不十分に伝えることが可能である。その説明をマスコミはそのまま受け取り、内容不明のまま国民に伝える。それでも、財務省は国民に情報開示したと言い張れる。

今回の菅総理は、この操作された説明を受け、消化不十分なまま選挙戦に臨んだことになる。民主党の中で十分に検討した挙句、民主党内内言語を国民向けに外言語化したものではないし、菅総理の内言語を外言語化したものではなかった。このことが、総理としての見識、力量が問われたという事である。

官僚の脳力にはるかに及ばない脳力であることが明らかになった以上、政治のトップリーダーとしての資質に欠陥があるという事である。つまり、菅総理は総理の器ではない。元の「反対屋」が指定席である。市民運動家に戻った方がよかろう。
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.21 2010 未分類 comment0 trackback0

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須藤文弘

Author:須藤文弘




歯科医師(1942年2月生まれ)
医事評論家
歯科医療コンサルタント
NPO法人日本歯科保健機構 理事長
東京医科歯科大学 昭和43年卒

 

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